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  2016年10月、高知県の室戸岬沖に一隻の船が停泊していた。国際深海科学掘削計画(IODP)*1の研究の最前線で活動する地球深部掘削船「ちきゅう」である。地球深部掘削船「ちきゅう」は、世界で初めてマントルから地質サンプルを採取可能にした科学掘削船だ。この「ちきゅう」に乗船する微生物研究者の一人が海洋研究開発機構の諸野祐樹氏である。

  諸野氏は、東京工業大学大学院を卒業後、産業技術総合研究所を経て、現在は海洋研究開発機構高知コア研究所 地球深部生命研究グループで海底下生命を探求している。諸野氏らのグループでは、海底下深部から採取されたコアと呼ばれる地質サンプルに存在する微生物を研究対象としており、その微生物を分析することで生物の起源を紐解こうとしている。

  人類をはじめ、地球上の生物は海を起源にしていることから、海底下の地層には地球上に生物が誕生してから現代までの歴史そのものが積み重なっているといわれている。地球深部に存在している微生物を研究することは、生物の起源に近づくことができる壮大な研究であるそうだ。また、ノーベル賞を受賞した大村智教授の研究としても脚光をあびたが、微生物を活用することで人類にとって有用な化合物を作り出すことも可能になってきている。特に、極限環境に生息する微生物はその環境に耐えうる遺伝子を有していることから、バイオテクノロジーや医薬品分野において次世代材料のひとつとして研究が進められている。

*1 国際深海科学掘削計画(IODP)は、日本、アメリカ、ヨーロッパが提供する掘削船を用いて世界中の海底を掘削して地質サンプル(掘削コア)を回収・分析するほか、そのデータを解析する研究によって地球や生命の謎の解明を目指す国際プロジェクト。回収されたコアは世界3ヵ所(高知、ブレーメン、テキサス)に分配・収蔵されている

 
 
諸野氏は、「この分野の研究者にとって重要なことは、どれだけ検出感度を高めることができるか」だと語る。その諸野氏が、世界一困難なミッションに挑戦した。それは、海底下深部2000mの微生物生命を探すというものである




  微生物は、一般的な土壌には1gあたり数十億ほど存在する。もちろん、大気中にも数多く存在している。

  しかし、海底下の深部に存在する微生物は極めて少ない。そのわずかな微生物の存在を証明するには微生物を正しく検出しなければならないが、そのためには顕微鏡を覗いて微生物がいるかいないかを慎重に観察するという、非常に気が遠くなる作業が必要になるそうだ。
 

  微生物を検出するには、地質サンプルを処理後、フィルタに通してそこに付着したさまざまな微粒子の中から求めている微生物だけを顕微鏡で数えるのだが、顕微鏡で見ることができる範囲はわずか0.1mm2程度しかないそうだ。

  約200mm2のフィルタ1枚に存在する微生物を検出するだけでも、これを1000回以上繰り返さなければならない。

  フィルタ1枚にたった数個しかいない微生物を丁寧に探し出す作業は、「東京ドームを埋め尽くした砂の中に隠れているパチンコ玉を見つけるような作業」だと諸野氏はいう。

 

 

諸野氏が「 世界一困難なミッション」 というもう一つの理由はコンタミネーションとの戦い

 
  「ちきゅう」は、従来の掘削船と比べて3倍以上深く掘ることができる。船上には、地質サンプルだけでなく、掘削時のドリル冷却などに使われている泥水(でいすい)も搭載され、その泥水には1cm3あたり1億個以上の微生物が存在しているそうだ。

  それらの泥水に含まれた微生物と海底深部の地質サンプルの微生物は、混じってしまうと見分けることができなくなる上、コンタミネーションと隣り合わせの船上という限られた空間で精密な実験を行わなければならない。この状態は、先ほどの東京ドームでたとえると、砂の中のパチンコ玉を探しているドアのすぐ向こうに、良く似たパチンコ玉が100万倍あふれかえっている状態だという。

  外部の環境が少しでも実験空間に混入してしまうと、研究成果が台無しとなってしまう。船上という限られた環境でわずかな海底深部の微生物を検出することは、まさにコンタミネーションとの戦いであったそうだ。

  今までは微生物を検出しようとしてもコンタミネーションなどの影響で、1cm3あたり1000個以上存在する場合にしか微生物を検出できなかったそうだが、諸野氏は長年の経験とKOACHを含めた実験環境の改善や整備によって、船上という過酷な研究環境の中でも1cm3あたりたった50個しかない場合の微生物の検出を可能にした。

「ちきゅう」の船内では、さまざまな状況でクリーン空間をフル活用している
 「ちきゅう」の船内にはKOACHが導入されており、諸野氏らが作業する空間を局所的に、高いレベルでクリーンにしている。「KOACHは開放されたままでクリーン環境をつくるため、ハンマーで岩石を砕くときなどの手の動きを邪魔しません。また、両脇に送風ユニットがあるので、上から試料を観察することもできます。船上では従来、海底下地層試料1cm3あたり1000個以上の微生物がないと検出することは困難でした。しかし、KOACHがあるおかげで船上でも50個程度の微生物がいれば検出できるようになりました。」と諸野氏はいう。

  KOACHは他の研究船でも活躍している。諸野氏はKOACHがどこにでも運べて、作業台を清掃すればそこに清浄環境をつくることができることに着目し、2015年に実施されたIODP研究航海でイギリスの研究船にテーブルコーチを持ち込んだという。掘削試料のサンプリングは船内のクリーンベンチを使用して実施される予定だったが、クリーンベンチ内には以前の実験で発生した微量のコンタミナントが残っており、清掃してもコンタミナントを排除できず、サンプリングにとりかかることができなくなっていた。このままでは船上で進める予定だった実験が頓挫してしまう。そこで諸野氏は、汚染リスクが少ないエリアにKOACHを設置した。諸野氏の予想通り、汚染がないクリーン環境をすぐに造ることができ、無事、サンプリングを完了させることができたそうだ。

世界有数の研究所が、未来への投資として導入したのが世界最高水準のクリーン空間
  高知県南国市にある高知コア研究所の諸野氏の研究室には、フロアーコーチによってISOクラス1のクリーン環境がつくられている。そのクリーン環境は開放感にあふれ、ISOクラス1という特別な空間であることを忘れてしまうほどだ。海底下深部の微生物を探すという根気が必要な研究内容を考えると、開放的なクリーン環境を求めるのは当然だと思うが、諸野氏がこだわる理由はそれだけではない。

  「高知コア研究所は海外の研究者が訪れることも多く、その研究者たちにフロアーコーチを見せることで日本の技術を自慢したいのです。」と、諸野氏は笑顔で語ってくれた。

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